「優れたブランドは、必ず顧客の“Job(片付けるべき仕事)”を解決している」という点に尽きる。マーケティングとは、顧客が求める“Job”を正しく発見し、それに対する独自の解決策(製品・サービス・コミュニケーション含む)を提供するプロセスそのものだ、というのが筆者の定義である。

顧客の“Job”を起点にせよ
デモグラ情報(性別・年齢・居住地など)だけでWHOを切り取っても意味がなく、本質は「不(フ)」=顧客が抱える不満・不安・不便を見つけることにある。顧客は自分が本当に求めていることをうまく言語化できない場合が多く、行動(使い方・習慣など)を深掘り観察する必要がある。
戦略とは目的とリソースの“選択”
戦略は「限られたリソースを、どの目的達成のために使うか」を決める意思決定のこと。戦略の前提として“具体的で測定可能(=SMAC)”な目的を設定するのが重要。さらに、「上位組織にとっての戦略は下位組織にとっての目的になる」構造を理解し、目的と戦略を一貫させねばならない。
ブランド成長の鍵は“購入率”=ブランド選好
売上を上げる要素は大きく「認知率・購入率・購入単価」の3つに分かれるが、なかでも顧客が自社ブランドを選ぶ理由=ブランド選好をいかに高めるかが中長期的には最重要。認知や店頭配荷の拡大も必須だが、それらは「上限100%」に縛られる。一方でブランド選好は上限がなく、ファンを増やせば加速度的にブランドは伸びる。
WHAT=解決策は“POD”と“コミュニケーション”の二軸
POD (Point Of Difference)
他社には真似できない優位性を明確化する。製品の機能を徹底的に磨くだけでなく、既存の技術や要素を別の切り口で組み合わせ、新たなベネフィットを生み出す方向も有効。ただし「顧客が実際に知覚できるレベル」でなければ意味がなく、投資コストやブランドイメージの整合性にも注意が必要。
コミュニケーション
どんなに優れたPODでも、正しく伝わらなければ顧客に響かない。「正しいブランド想起」「印象の独自性」「PODが伝わる」の3要素を満たすことが肝要。広告代理店などパートナーと組む際は“JobとPOD”をしっかりブリーフィングすることが欠かせない。
HOW=実行はカスタマージャーニーと各メディアの特性を押さえる
カスタマージャーニー(認知→関心→比較→購入→推奨)上で、どこを強化すれば売上が伸びるかを冷静に見極め、適切な施策を選ぶ。ペイドメディア(広告出稿)はマス認知に有利、オウンドメディア(自社HP・SNS)は深い情報提供やファン化に向く、アーンドメディア(口コミ・SNS拡散)は第三者視点の信頼獲得に効果的。イベントやパートナーシップなどメディア外の実行も有力手段となる。
マーケティングを“体系的”に理解し、システムとして社内に浸透させよ
著者はP&Gの経験から、体系だったマーケティング思考が企業内部で機能しない場合、取り組みが断片化して俗人的になりがちだと指摘する。全社視点で戦略立案し、WHO(フではなく“不”)とWHATを定義し、さらにHOWを綿密かつ情熱的に実行する。その一連のプロセスこそがマーケティングの本質である。
以上のように、マーケティングの中心命題は「顧客の真の問題(Job)を理解し、優れた解決策(POD)とそれを伝えるコミュニケーション、そして適切な実行」である。奇抜な近道はなく、王道かつ地道な方法こそが強いブランドをつくる鍵だと強調している。