マーケティングにおける「STP」とは、「Segmentation(セグメンテーション)」「Targeting(ターゲティング)」「Positioning(ポジショニング)」の略で、効果的なマーケティング戦略を立案するためのフレームワークです。各要素について詳しく説明します:

STPは、マーケティング戦略の核心となる理念であり、企業が競争市場で成功を収めるための基盤を構築します。例えば、成功した企業の多くは、このフレームワークを用いて市場のニーズを的確に捉え、競争優位性を確立しています。このプロセスには、消費者の動向を把握するためのデータ分析や、競合の動きを分析することが含まれます。

セグメンテーションの重要性は、各セグメントに特有のニーズを理解することです。たとえば、年代ごとに異なるライフスタイルや消費パターンを考慮し、若年層向けの製品はトレンドを重視し、高齢者向けは安心・安全を重視することが求められます。これにより、マーケティングメッセージをよりパーソナライズすることが可能になり、消費者との関係を深化させることができます。

ターゲティングは、特定の市場セグメントに焦点を当てることで、リソースを効率的に配分するための重要なステップです。たとえば、特定の地域における消費者の嗜好を理解し、その地域に特化したプロモーション活動を実施することで、より高い効果を得ることができます。また、ターゲティングの成功例として、特定の年齢層やライフスタイルを持つ消費者に対して、カスタマイズされた広告を配信することが挙げられます。

ポジショニングは、競争が激しい市場において、自社製品の独自性を際立たせるための戦略です。ブランドのメッセージやビジュアルアイデンティティを通じて、消費者に自社の価値を明確に伝えることが求められます。たとえば、特定の製品が持つユニークな売り(USP)を強調することや、他社製品との違いを際立たせるためのマーケティングキャンペーンを展開することが重要です。

このSTPプロセスを通じて、企業は顧客の期待に応え、持続的な競争優位性を確保することができます。成功する企業は、変化する市場環境や消費者のニーズに柔軟に対応し、常に自社の戦略を見直す姿勢を持っています。

Segmentation(セグメンテーション)
市場を消費者の属性や行動、ニーズに基づいていくつかのセグメント(区分)に分けるプロセスです。年齢、性別、ライフスタイル、購買行動などの基準で顧客を分類し、異なるニーズを持つ各グループを明確にすることが目的です。

ファミリーレストラン業界において、STPのアプローチを取ることで、企業は消費者の多様なニーズに応えることができます。ファミレスは、家族での利用が多い一方で、個人利用やビジネス利用も見込まれるため、それぞれのセグメントに応じたアプローチが必要です。

具体的なファミリーレストランの事例としては、ファミレスチェーンの成長過程を分析することが有益です。たとえば、あるファミリーレストランが新しいメニューを導入した際、そのセグメンテーションとターゲティング戦略がどのように影響を与えたかを検討することができます。高齢者向けの健康志向メニューを導入した結果、特定のターゲット層からの集客が増加したという事例があるかもしれません。

ファミレス市場のセグメンテーションにおいては、低価格帯、中価格帯、高価格帯といった価格軸に加え、料理ジャンルや利用シーンに基づくさらなる分類が可能です。たとえば、ファミリー層向けには広い座席や子供向けメニューを提供し、一方でビジネス向けには静かで落ち着いた環境を整えることが求められます。このように、顧客のニーズに応じた細やかなサービスの提供が、ファミレスの競争力を高める鍵となります。

Targeting(ターゲティング)
セグメンテーションによって分けた市場の中から、最も有望で、利益が見込めるターゲット層を選定する段階です。企業は、自社の製品やサービスがどのターゲット層に最も適しているかを分析し、効果的なマーケティング活動を行います。

Positioning(ポジショニング)
選定したターゲット層に対して、自社の製品やサービスをどのように認識してもらうか、つまり「市場におけるポジション」を決定するプロセスです。競合との差別化を図り、顧客の心に自社ブランドの位置を明確にすることを目指します。例えば、品質重視、コストパフォーマンス、革新性などの特徴を強調することで、顧客の中で独自の価値を築きます。

STPは、ターゲット顧客のニーズに応じたマーケティング戦略を練り、リソースを効果的に配分するための基本的なプロセスです。

STPとは何か?

また、ファミレスのメニューの多様化は、セグメンテーションを活かす絶好の機会です。たとえば、地域ごとの特産品を取り入れたメニューを提供することで、地域密着型の戦略を強化できます。このように、地域の文化や食材を反映させることで、消費者に新しい食体験を提供し、競争から一歩抜きん出ることが可能です。

ファミレスを例にSTPを考える

これにより、特定のターゲット層に対するポジショニングも強化されます。たとえば、ファミリーレストランが「家族向け」を前面に打ち出し、特別割引やファミリーパッケージを提供することで、顧客の忠誠心を高める戦略を採用することができます。

日本における代表的なファミレスを例に、STP(Segmentation / Targeting / Positioning)分析を行い、最後に2軸マップによる位置づけを示します。

1. 前提:ファミレス市場の概観


  • 幅広い客層

     家族連れ、学生、社会人、高齢者など、年齢・性別を問わず利用される。

  • 低価格・中価格帯での競合

     低価格帯は学生・若年層や家族中心、中価格帯はファミリー層~シニア層まで広めにターゲット。

  • メニューの多様化

     洋食系、和食系、中華系、イタリアン系など、多様なジャンルで展開。

  • 店舗数・立地の多さ

     ロードサイドや駅前、商業施設など多様な立地に出店し、日常的に利用されやすい。

2. Segmentation(セグメンテーション)

ここでは、主に以下のような切り口でセグメントを捉えます。

  1. 価格帯によるセグメント

    • 低価格帯(例: Saizeriya, Joyfull など)

    • 中価格帯(例: Gusto, Jonathan's, Denny's, Coco's など)

    • 高価格帯(例: Royal Host など)
  2. メニュー傾向(専門性 vs. 多様性)によるセグメント

    • 比較的専門性が高い(例: Saizeriya〈イタリアン中心〉、Bamiyan〈中華中心〉、Big Boy〈ハンバーグ・ステーキ中心〉 など)

    • 総合型・メニュー幅広め(例: Gusto, Jonathan's, Denny's, Royal Host, Coco's など)
  3. 利用シーン・利用者層

    • ファミリーやグループ中心(座席が多く、キッズメニュー充実など)

    • 個人やビジネス利用も多い(打ち合わせや休憩など、多様な時間帯の利用に対応)

3. Targeting(ターゲティング)

上記セグメントに対して、代表的なファミレス各社がどのターゲットを中心に狙っているかを簡潔に示します。

  1. Saizeriya (S)

    • ターゲット: 学生や若年層、低価格を重視する家族連れ

    • 特徴: イタリアン中心のメニューを低価格で提供し、ドリンクバーなどで居座りやすい環境
  2. Joyfull (JF)

    • ターゲット: 地域密着型で、低価格重視のファミリー・シニア層

    • 特徴: 全国展開はしているが九州地方を中心に店舗数が多く、比較的価格が安め
  3. Gusto (G)

    • ターゲット: 幅広い年代のファミリー・若年層

    • 特徴: ドリンクバーや豊富なメニューを手頃な価格帯で提供。日本全国に広く展開
  4. Jonathan's (JN)

    • ターゲット: 郊外・ロードサイド中心で車利用のファミリーやビジネスパーソン

    • 特徴: 豊富な和洋メニューを中価格帯で提供し、比較的落ち着いた雰囲気
  5. Denny's (DY)

    • ターゲット: 幅広い層だが、やや高めの価格帯を許容するファミリー・シニア層

    • 特徴: 全時間帯で利用しやすい24時間営業店舗も多く、和洋幅広いメニュー
  6. Coco's (CC)

    • ターゲット: ファミリー・若年層・学生

    • 特徴: 洋食メインでデザートなどにも力を入れており、店舗ごとに若干の地域色も
  7. Bamiyan (BM)

    • ターゲット: 中華料理を手軽に食べたいファミリー・グループ

    • 特徴: 中華系メニューに特化しつつファミレスとしての居心地を提供
  8. Big Boy (BB)

    • ターゲット: ハンバーグ・ステーキなど肉料理を好む若年層、ファミリー層

    • 特徴: サラダバーを併設するなどファミレス形態を取りつつも、肉料理中心
  9. Royal Host (RH)

    • ターゲット: ファミレスの中でもゆとりある価格帯を受容できる層、やや高所得ファミリー・シニア層

    • 特徴: 高品質な食材とややプレミアムな雰囲気で差別化

4. Positioning(ポジショニング)

(1) 全体的なポジショニングの方向性


  • 低価格路線: Saizeriya, Joyfull など

  • 中価格路線: Gusto, Coco's, Jonathan's, Denny's, Big Boy, Bamiyan など

  • 高価格路線: Royal Host など

  • 専門性(料理ジャンル特化): Saizeriya(イタリアン), Bamiyan(中華), Big Boy(肉料理)など

  • 多様性(総合メニュー): Gusto, Jonathan's, Denny's, Royal Host, Coco's など

(2) 簡易2軸マッピング

マッピングの例として、横軸価格帯(低→高)縦軸メニューの専門性(特化→多様)とし、代表的なブランドを配置します。

ファミレスマッピング

左下(低価格+やや専門性アリ)


  • S (Saizeriya): イタリアン特化、価格も低い

  • JF (Joyfull): 地域密着型で低価格、メニューは一応総合型だが価格で見るとこちらに配置

中央~右寄り(中価格+多様or専門)


  • G (Gusto), JN (Jonathan's), DY (Denny's), CC (Coco's): 総合メニューが豊富で中価格

  • BM (Bamiyan): 中華にやや専門性が高いが価格帯は中ぐらい

  • BB (Big Boy): 肉料理特化型だが、価格は中価格帯~少し高め

右上(高価格+多様)

  • RH (Royal Host): ファミレスの中では高価格帯、メニューは幅広く質も高い

5. まとめ

  • Segmentation

    • 価格帯(低~高)やメニュー(専門性~多様性)、利用シーン・ターゲット層(学生、ファミリー、シニアなど)といった複数の軸でファミレス市場はセグメント化できる。
  • Targeting

    • SaizeriyaやJoyfullは低価格を求める若年層・ファミリーを、Royal Hostはプレミアム感を求める層を狙い、それぞれのブランドに応じてターゲットを選定している。
  • Positioning

    • 低価格帯×専門性のSaizeriya、低価格帯×総合型のJoyfull、肉料理特化のBig Boyや中華系のBamiyanなど、特徴的なポジショニングを形成している。

    • Gusto、Jonathan's、Denny's、Coco'sなどは中価格帯で総合メニューを持ち、幅広い客層をカバー。

    • Royal Hostは比較的高価格帯に位置づけ、品質・サービスの面で差別化している。

このようにSTP分析と簡易マッピングを行うことで、各ファミレスの立ち位置や競合関係がわかりやすく整理できます。

STP分析を通じてファミレスの事業戦略を見直すことが重要です。競合との比較を行いながら、自社の強みを生かした独自のポジショニングを構築することで、長期的な成長を目指すことができるのです。

最後に、STPを取り入れた戦略的アプローチは、単に市場における成功を収めるだけでなく、顧客との関係を深め、ブランドのロイヤルティを育成するための手段でもあります。顧客が自社のブランドに愛着を持つことで、リピート購入や口コミによる新たな顧客獲得につながります。このプロセスを意識しながら、STPのフレームワークを効果的に活用していきましょう。